ロシアのウクライナ侵略を支えるEU?
新年早々、お屠蘇(とそ)気分を吹き飛ばすような数字を見つけて、暗い気持ちになった。
EUは、「ロシア化石燃料追跡トラッカー」というサイトを公表している。このサイトによると、昨年2月24日にロシアがウクライナに侵攻してから12月31日までに、EU加盟国がロシアの化石燃料を買うために支払った代金の総額は、約1307億ユーロ(約18兆2980億円、1ユーロ=140円換算、以下同じ)に上る。
ここに紹介した数字は、2023年1月1日に読み取ったもの。トラッカーの数字は毎分毎秒増え続けている。加盟国の中で最も多くロシアに金を払ってきたのがドイツで、19年にロシアのガス、原油、石炭を買うために、241億1600万ユーロ(約3兆3762億円)も送金した。イタリアも143億400万ユーロ(2兆26億円)、フランスも81億7300万ユーロ(1兆1442億円)を支払った。
イタリアのマリオ・ドラギ前首相は「われわれはロシアの化石燃料を買うことで、プーチン大統領のウクライナでの侵略戦争の資金援助を行っている」と発言したことがある。われわれ欧州に住む市民は、ガス暖房のスイッチをいれたり、車のガソリンを給油したりすることで、ロシアの侵略行為の片棒を担いでいる。ウクライナ人たちはこの数字を見たら怒るだろう。
ちなみに、プーチン大統領は昨年西欧へのガス供給を止めたが、その目的の一つは、ガスの価格をつり上げて収入を増やすことだった。ベルリンの研究機関「科学政治財団(SWP)」のヤニス・クルーゲ研究員は「西側諸国は、対ロ経済制裁措置によって22年のロシアのGDPが前年比で6%減ると予想していたが、実際には3%しか減らなかった。その理由の一つは、ロシアが西欧へのガス供給をやめることで、価格を大幅につり上げたために、多額の収益を得たからだ」と説明している。
また、ロシアはEU向けガスを減らした分を相殺するために、中国へのガス輸出量も増やした。昨年上半期に中国がロシアから輸入したLNGの量は、前年同期比で28.7%増えた。さらに、ロシアが「シベリアの力」パイプラインの輸送量を増加させた結果、昨年上半期に中国がロシアからパイプラインを通じて輸入したガスの量は、前年同期比で63.4%も増えた。
ロシアの「価格操縦」と中国の援護射撃により、昨年の欧米の経済制裁措置は効果を挙げていない。23年は欧州にとって引き続き困難な年になるだろう。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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