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悲しき国防大臣(上)

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 ドイツ政府は1月24日に、同国製のレオパルド2型戦車をウクライナに供与すると発表した。この決定は遅れに遅れた。その一因は、国防や軍事に関心がない政治家が国防大臣の座に就いていたことだった。
 2021年12月にショルツ政権の国防大臣に就任したクリスチーネ・ランブレヒト氏は社会民主党(SPD)左派に属しており、軍事・国防問題に関心がなかった。同氏は連邦議会議員だったころ、連邦軍の基地などを一度も視察したことがなかった。彼女が国防大臣に就任した主な理由の一つは、男女の機会均等を重視するショルツ首相が、内閣で男性と女性の比率を50%ずつにするためだった。いわば頭数をそろえるために、女性が国防大臣になった。
 だが、ロシアのウクライナ侵攻という欧州の安全保障に関する座標軸を変える大事件が起きた時に、軍事に無関心の人物が国防大臣だったことは、ドイツにとって不運だった。
 昨年1月、米国のバイデン政権は、「近くロシア軍がウクライナに侵攻する」という警告を発していた。ロシア軍が約20万人の戦闘部隊をウクライナ国境付近に集結させていたことから、米国と英国はゼレンスキー政権の要請に応えて、歩兵用携帯式対戦車ミサイル・ジャベリンなどの兵器をウクライナに送っていた。
 だが、ランブレヒト大臣(当時)は、「わが国は、紛争地域に武器を送ることを法律で禁じられている」として、ヘルメット5000個と野戦病院だけをウクライナに送り、欧州諸国の失笑を買った。また、エストニア政府が、社会主義時代に東ドイツ人民軍から供与された榴弾砲をウクライナに送るためにドイツ政府に許可を求めたところ、ランブレヒト大臣は拒否した。
 昨年ウクライナがドイツに対して、ゲパルト対空戦車やマルダー装甲歩兵戦闘車の供与を求めた時、ランブレヒト氏は「ウクライナに送れる重火器はない」と言ってにべもなく拒否した。だが、ショルツ政権は、他のNATO加盟国の圧力が高まったために、昨年4月26日にゲパルトを、今年1月6日にマルダーのウクライナへの供与を決定した。ドイツがマルダーの供与を決めたのは、まず米国がM2ブラッドレー歩兵戦闘車を、次いでフランスがAMX―10RC型偵察戦闘車を供与すると発表したからだ。ショルツ首相は、米仏に背中を押されるまで動かなかった。
 つまり、ドイツは供与しようと思えばできたのに、他国の圧力が高まるまでは、供与を断っていたのだ。
 (つづく)
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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