悲しき国防大臣(下)
ドイツ政府は1月24日にレオパルド2型戦車をウクライナに供与すると発表した。だが、同国は昨年2月から約1年間にわたり、ウクライナへの武器の供与をまず断るが、他国の圧力が高まり支えきれなくなると結局供与を認めるというパターンを繰り返してきた。この態度は、ドイツ政府への信用性を傷つけた。
ゼレンスキー大統領はドイツの週刊誌シュピーゲルとのインタビューの中で、「私はしばしば、なぜウクライナに武器を送ることが必要なのかについて、ショルツ首相を説得しなくてはならない」と語っている。ゼレンスキー大統領にしてみれば、「どうせ最後は武器供与を承認するのだから、もっと早く決めてほしい」と言いたいところだろう。
ランブレヒト氏は「メディアによる批判が私に集中して、執務の妨げになっている」として、1月16日に大臣を辞職した。その3日後に、ニーダーザクセン州の元内務大臣ボリス・ピストリウス氏が国防大臣に就任した。彼が驚いたことに、ランブレヒト氏は、ドイツ連邦軍がレオパルド2を何両持っており、そのうちウクライナに供与できるのは何両か、戦車メーカーに何両の在庫があるのかなどの基本的なデータすら集計していなかった。ランブレヒト氏は、そのようなデータを集計することが、「ドイツがレオパルド2を供与する準備を行っている」と解釈されることを恐れたのだ。このため、ピストリウス新大臣は直ちにレオパルド2の数に関する資料の作成を部下に命じた。
ランブレヒト前大臣のずさんな仕事ぶりは他にも明らかになった。例えば、ショルツ首相は昨年2月に、連邦軍の兵器や装備を更新・増強するために1000億ユーロ(14兆円、1ユーロ=140円換算、以下同じ)の特別資金を計上すると発表した。しかし、ランブレヒト氏は、これまで国内メーカーに対してほとんど新しい兵器や弾薬を注文していなかった。14兆円もの資金を使えることになったのに、1年間の時間が空費された。
実は、ドイツはウクライナに多額の軍事支援を行ってきた。昨年1月1日から今年2月6日までにドイツがウクライナに供与した兵器や弾薬の総額は23億4000万ユーロ(3276億円)に上る。同額は、米国、英国に次いで世界で3番目に多い。世界で五指に入る規模の軍事支援を行っているにもかかわらず、首相や国防大臣の決定がもたついたために、「ドイツはウクライナ支援に消極的だ」という悪評が世界で定着したのは残念である。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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