ロシアのウクライナ侵攻開始から1年
ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻を始めてから1年がたった。だが、戦争収束の気配はない。ウクライナのゼレンスキー大統領は「クリミア半島やドンバス地方も含めてロシア軍が完全に撤退するまで、停戦・和平交渉はあり得ない」としている。一方、プーチン大統領も「欧米諸国が設置したネオナチ政権をウクライナから駆逐してこの国を非ナチ化するまで、戦争を続ける」と主張。プーチン大統領は「この戦争は欧米が始めたものであり、われわれは自衛しているだけだ。ロシア軍はウクライナ市民を攻撃していない」と発言している。
ウクライナは、ロシアに一方的に攻め込まれた被害者だ。ロシア軍はミサイルや砲弾で軍事目標だけではなく、ウクライナの病院や団地なども攻撃しており、欧米諸国から「戦争犯罪だ」と非難されている。国連人権高等弁務官(OHCHR)によると、昨年2月24日から今年1月2日までにウクライナ市民少なくとも6919人が死亡し、1万1075人が重軽傷を負った。死者のうち391人は子どもだ。ウクライナ政府によると、開戦から昨年6月3日までにウクライナ兵約1万3000人が戦死した。EU軍事局(DGEUMS)は、開戦から昨年11月15日までにロシア兵約6万人が戦死したと推定している。米軍関係者の間には、両軍の戦死者が20万人に達するという見方もある。
日本でもドイツでも、「ウクライナは譲歩して停戦交渉のテーブルにつくべきだ」という意見が聞かれる。しかし、被害者ウクライナの頭ごなしに、米国やEU諸国がロシアと交渉することはできない。
欧米諸国がウクライナに大量の武器を供与している理由は、ウクライナがロシア軍を領土から駆逐して、ウクライナが有利な条件で和平交渉を始められるようにするためだ。欧米諸国は、ロシアがウクライナから領土を奪ったことを追認するような和平条約は結ばせない。そんなことをしたら、他の国も「軍事力で隣国の領土を奪うことは許される」と考えるに違いない。
ロシアが占領した地域では、言論や集会の自由が剥奪され、市民はロシア国籍を取るように強要される。へルソンで服従を拒否したウクライナ人指揮者は、ロシア兵に射殺された。これは「平和」ではなく「恐怖支配」である。
そう考えると、この戦争はすぐには終わらない。ウクライナの3倍の人口を持つロシアは、長期的な消耗戦でウクライナを疲弊させ、欧米諸国を分断することを目指しているのかもしれない。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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