日本経済の未来と労働力
今年3月上旬から約2カ月間日本に滞在した。一番衝撃を受けたデータは、2月14日に総務省が公表した「労働力調査」である。この統計によると、日本の勤労者の37%が非正規労働者であり、非正規労働者の90%の年収が300万円未満である。これでは国内消費は拡大せず、経済が上向きになるはずがない。多くの若者が収入不足により結婚できないために、人口減少も加速するだろう。
一方、東京では新しい高層オフィスビルが次々に建設され、マンハッタンのような地域が出現しつつある。六本木や銀座では、1人分の料金が5万円のレストランに富裕層が殺到し、予約が取りにくい状況である。東京と地方の格差は拡大する一方だ。
日本は、社会保障制度を重んじるドイツよりも、米国に似た社会に近づいている。米国は、所得格差が拡大することをあえて是認する。したがって、米国では、社会保障制度の安全ネットはドイツに比べると薄い。ドイツは社会保障制度によって、富の再配分を日本や米国よりも強化している。
若者の貧困化は国民年金など社会保障制度にとっても大きな脅威だ。しかも、国の公的債務残高はすでに国内総生産(GDP)の260%に達しており、財政出動を増やして市民を支えることも難しい。一方、日本政府は、東アジアの緊張を理由に防衛費を大幅に増やすために企業増税を検討している。円安は製品の輸入コストを引き上げるので、今後日本でもインフレが徐々に進む。
経済協力開発機構によると、1995年~2021年にドイツ人の年間平均賃金は、2万5994ユーロから4万3722ユーロに68.2%増えたが、日本の年間平均賃金は458万2146円から444万3874円に3%減った。
こうした時代状況の中で、多くの若者は閉塞感を抱いている。「自分には失うものは何もない」と自暴自棄になり、銀座で白昼に高級時計店に押し入って強盗を行ったり、政治家に対するテロを行ったりする若者が増える可能性がある。
企業の高水準の内部留保を容認し、国民の可処分所得の低下を許容する。国民の幸福という観点から見ると、経済政策が機能していないように見える。
政府は社会で拡大しつつある不公平を是正するべきではないか。国の主は政治家ではなく、納税者だ。外国人観光客だけではなく、自国民に対する「おもてなし」も充実させるべきだ。国防も重要だが、若者が将来に希望を持てる国にすることも、政府の重要な課題だ。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92