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特集

特集 関東大震災から100年(3)損保各社の防災取り組み

損保各社の防災取り組み



 災害発生時の契約者の経済的損失に対して、保険金の支払いという形で回復を図り、契約者の生活や企業活動が迅速に元に戻るよう支援することが損保会社の「本業」だが、加えて、災害による損失を事前に回避したり、軽減したりする防災・減災の支援も損保各社は使命として長年にわたって取り組んでいる。関東大震災から100年の節目を迎えた今年は特にその活動を活発化させている。



■東京海上日動 「レジリエンスな社会づくり」に向け推進、多種多様な企業・団体と連携



【取組み広がる防災コンソーシアム】
 地震や津波、台風といった災害の他、気候変動による気象災害リスクの増大も懸念される中、東京海上日動は防災・減災に役立つ保険商品・サービスを提供するとともに、安心・安全でレジリエントな社会づくりに向けた取り組みを進めている。例えば、個人向けには、東日本大震災をきっかけに2012年度から小学生を対象とした防災啓発プログラム「ぼうさい授業」を継続的に開催している。動画やクイズ形式などコンテンツにも工夫を加えている同プログラムは、従来の地震・津波編のほか、20年度からは水害・土砂災害編も新たに実施しており、累計受講者数はすでに7万人に達している。一方、企業に対しては自治体や商工三団体などとも連携しながらBCPや事業継続力強化計画の策定支援を行っており、22年2月末時点での自治体との累計協定締結数は地方創生やSDGs等包括連携協定も含めると100を超える。
 近年、同社の防災・減災取り組みでは、22年4月に始動した「防災コンソーシアムCORE」が軸になっている。政府による「国土強靭化基本計画」に沿った防災・減災取り組みを加速・推進するための新たなソリューションを創出・市場展開することなどを目指し、21年11月に同社が発起人となって創立メンバー14法人で発足。多種多様な業界の企業・団体などとパートナーシップを組むことで、各メンバーが持つ技術やデータを活用した防災・減災事業の共創を図っている。当初、ソリューションの提供分野として五つのテーマが定められ、それに基づく分科会が発足して約30法人が名乗りを上げたが、現在は10の分科会に100法人が参画するなど拡大しており、事務局として調整役の役割も担う同社は全分科会に属している。
 すでに同社の提供する知見をベースにしたソリューションも開発されており、防犯カメラ映像のAI解析により浸水深をリアルタイムで把握する「リアルタイムハザード」や、水災害による対象地域の建物被害総額をシミュレートし、自治体のインフラ補強計画における必要性・緊急性の精査を支援する「災害損失シミュレーション」などのリリース準備が進められている。また23年7月から、登録地点でのリスク情報を一元管理してアラートを発する「レジリエント情報配信サービス」の販売を開始しており、次年度以降は防災・減災データプラットフォームを用いたリスクデータの販売も予定している。



提供を開始したレジリエント情報配信サービス



【山手線の内側に強震観測施設を】
 「関東大震災から100年」というタイミングにも重なった地震防災への新たな取り組みとして、同社はこのほど、東京都心で初めて「強震観測施設」を設置した。今から70年前の1953年に開始された日本の強震観測は、強震観測機器の性能・機能の向上や、全国への高密度な展開により、数多くの貴重な強震波形データを得て地震防災に貢献しており、現在は、国立研究開発法人防災科学技術研究所(防災科研)が運用する全国強震観測網(Kyoushin Network:K―NET)によって強震データが計測・蓄積されている。
 全国に1000カ所以上設置される強震観測施設によって成り立つK―NETは、国土を約20キロメートル間隔で均質にカバーしているが、意外にもこれまで東京都心、JR山手線の内側には1カ所の施設もなかった。そこで、防災科研から依頼を受けた同社は、施設設置を検討した末、渋谷区千駄ヶ谷にある自社の研修センターの敷地の一部を提供し、強震観測施設を設置することで、地震災害の絶えざる脅威に対する効果的な地震防災を考える上で欠かせない強震データの提供に貢献している。9月6日に開催される防災科研主催のシンポジウム「強震観測を考える」では、同社と、同じく強震観測施設を都内に新設した鹿島建設に感謝状が贈呈される予定となっている。
 同社は地域住民、企業、自治体向けのサービス提供や、パートナー企業、公的機関などとも連携しながらさまざまなレベルで防災・減災に注力しているが、「防災・減災は競争領域ではなく、異業種企業や同業他社とも手を携えて推進していきたい」として、今後も日本の災害レジリエンスの向上に取り組むとしている。



強震観測施設の新設に協力



■三井住友海上 さまざまな領域で特色ある取り組み、代理店組織との連携がポイントに



【自治体向けに防災・減災支援】
 三井住友海上にとって防災・減災支援は、本業である損保ビジネスとの関連性が高いことから、これまでもさまざまな領域において注力しており、各部署がそれぞれの特色に合わせた取り組みを進めている。直近の例でいえば、営業企画部で火災保険や地震保険などの営業推進の一環として防災意識の向上を図るチラシを作成して代理店を通じて契約者などに配布している他、業務プロセスデザイン部では6月から、東芝デジタルソリューションズと共同で、近年多発しているひょう災による被害の軽減を図るアラートサービスの実証実験を開始している。
 新しいビジネスの創出に取り組むビジネスデザイン部では、自治体向け防災・減災支援サービスとして「防災ダッシュボード」を展開している。自治体では、地域住民を守るために避難指示の発令や安全に資する行動のサポートなど迅速・適切な対応が求められるが、専門人材などのリソースが少ない自治体も多く、また、災害時の混乱によって機能不全に陥る自治体も少なくない。リアルタイムな気象データに加え、30時間以上先の水害予測や、地震発災から約10分後の被害規模推定など、災害時に必要な情報を的確かつ迅速に収集・分析して地域住民を守るのに役立ててもらうツールを提供している。
 また、中央省庁等とのコミュニケーションを通じたCSV取り組みを実践する公務開発部では、個別避難計画に基づく避難支援活動をサポートする取り組みとして、「支援者・要支援者避難サポート保険」の販売を開始している。個別避難計画に基づく避難行動中等の要支援者への賠償事故や、支援者・要支援者のケガを補償する避難サポート保険は、自治体での個別避難計画作成取り組みを支援する施策として注目を集めている。



支援者・要支援者避難サポート保険のチラシ



【自然災害から命守る「防災チェックサービス」】
 さまざまな防災・減災取り組みがある中で、三井住友海上は現在、代理店組織との連携による活動を積極的に推進している。同社と同社代理店組織のMSAは7月から、“自然災害から命や生活を守る”をコンセプトに「防災チェックサービス」の提供を開始した。
 同サービスは、代理店募集人が顧客宅を訪問した際、独自に作成した「防災チェックシート」を基に、飲食料品や防災グッズの準備状況、家具の固定状況、保険の加入状況などの確認を顧客と一緒に行い、防災対策のポイントをアドバイスするもの。今年9月1日で関東大震災の発生から100年の節目を迎えることを受け、また、自然災害が多発・激甚化している近年の状況を踏まえ、あらためて自然災害の脅威を顧客に伝えるとともに、防災対策を支援していくことが保険会社と代理店の使命と捉えて取り組んでいる。
 とりわけ台風シーズンを迎えて防災・減災への機運が高まる7月~9月を取組強化月間に設定し、防災グッズ(携帯トイレ)を提供するとともに、期間中の防災チェックの件数に応じて、被災地の復旧支援や防災・減災に取り組む支援機関などに対して、全国MSA社会貢献基金を原資とした寄付を実施する。
 一方、同社が支援する自動車整備工場の全国組織であるアドバンスクラブ(AC)は、一般社団法人日本カーシェアリング協会と「災害時における支援に関する協定(モビリティ・レジリエンス協定)」を締結している。同協定に基づいて、大規模災害発生時に車両を失い、移動が困難な被災者に対して車両の提供などで支援しており、近年に発生した自然災害でもAC会員が提供した車両が役に立った。
 これらの取り組みについて三井住友海上では、「現在も地域の防災・減災支援に当社の資源である社員が積極的に取り組んでいるが、当社のさらに重要な資源は全国の代理店のネットワークであり、今後も代理店と当社が連携しながら地域住民や企業のために取り組みを推進していくことが望ましく、これまで以上に発展させていければと考えている」としている。



防災チェックシート



■あいおいニッセイ同和損保 社員・代理店による防災・減災支援、「災害に強い地域づくり」推進



【地域向け支援メニューを豊富に用意】
 行動指針の一つに「地域密着」を掲げるあいおいニッセイ同和損保では、全国59あるリテール部支店全てに設置している地域戦略室を窓口に、自治体や地域企業等の地方創生取り組みを支援している。とりわけ防災・減災については、同社社員と各地の代理店が一緒になって啓発活動などを行い、「災害に強い地域づくり」を推進する。
 自治体向け支援として、「防災啓発イベント開催支援」「罹災証明書発行支援」などを実施している他、地域住民向けには、「防災・減災意識の醸成に資するセミナー」「PHV・ハイブリッド車非常用電源を活用した防災取り組みのデモ」などを、地域企業向けには、「BCPセミナー」「BCP策定支援(地震・水災/感染症)」「水災時の避難計画となるタイムラインの策定ツール」などを提供している。
 また、セミナーなど防災・減災イベントの担い手である同社社員や地域の代理店がしっかりと講師を務められるようセミナー講師養成講座なども用意しており、同社と代理店が一丸となって自治体・地域住民・企業の防災・減災取り組みを支援している。

【cmapの新たな取り組み】
 同社は2019年に、台風・豪雨・地震によって被災する建物数を市区町村単位で予測する世界初のウェブサイト「cmap」をリリースした。エーオンベンフィールドジャパン(現エーオングループジャパン)、横浜国立大学との産学共同研究によって誕生したcmapは、台風(風災)であれば上陸前から最大7日先まで、豪雨であればリアルタイムで被災建物数・被災件数率を予測し、1時間ごとに更新。地震では発生から約10分後には被災建物数・被災件数率を予測する。こうした機能を備えたツールでありながら、被災地域の早期避難、迅速な救助活動の一助となるよう無償で一般公開されている。
 年々機能を拡充しており、20年に被災前後のSNS投稿の地域別・事象別表示や、自治体による避難指示等のLアラートによる配信(アプリ版)を追加した他、21年に避難所開設情報や避難場所空き情報のリアルタイム表示、22年にはアプリに天気予報や渋滞情報など日常利用可能な機能を加えた。
 直近の取り組みでは、22年1月から東京大学・名古屋大学・JAXA・長野県と共に洪水予測データの利活用に関する共同研究を実施。長野県をフィールドとした流域治水の実現に向けた検証の中で、cmapが洪水リスク情報のプラットフォームとしての役割を担うため、最大30時間以上先までの洪水予測データを予測する「長野県庁職員向けcmap」を構築した。こうした取り組みから、今年7月には国交省が公募する流域治水のオフィシャルサポーターに共同研究メンバーとして認定を受けた。
 また、国土地理院の浸水推定図に基づく水災時の被災率予測も今年度から開始しており、市区町村よりさらに細かい町丁別での被災率表示を実装した。
 地震に関しては、発生10分後の被害予測を表示するが、近い将来に発生が懸念される首都直下地震(東京湾北部地震)の被害想定シミュレーションも実装している。



より精緻な被災率予測が可能になったcmap



【災害関連資料をアーカイブ化】
 同社は新たな防災・減災の取り組みとして、今年6月に「災害の記憶デジタルミュージアム」をホームページ上に開設した。18世紀から20世紀初頭に全国各地で発生したさまざまな災害(地震、火災、台風、落雷、津波、噴火、伝染病など)の史料を主とする同社所蔵の1460点に上る災害図コレクション「旧同和火災コレクション」をデジタル空間上に展示している。
 「旧同和火災コレクション」はこれまで、同コレクションの寄託先である京都文化博物館や、同社が運営する美術館「UNPEL GALLERY」、各地にある博物館での巡回展などで展示していたが、今年が関東大震災から100年の節目を迎えることから、オンライン上でも多くの人に閲覧してもらうために、AI合成音声による解説などNHK財団が持つ最先端のデジタル技術を駆使したデジタルミュージアムを導入した。
 今後は、10月に国立科学博物館で開催予定の関東大震災100年企画展「震災からのあゆみ―未来へつなげる科学技術―」で8K大型モニターを設置して、実物を超える色彩・迫力などを体感してもらうことも計画している。同社では引き続き、歴史的価値のある資料に接する機会を広げることで、「災害の記憶」を後世に残し、防災・減災の意識向上を図っていくとしている。



■損保ジャパン 地域に根差した取り組みを活発化、約8万人参加の「防災ジャパンダプロジェクト」



【新たな取り組み「逃げ地図づくり」】
 損保ジャパンは、地域に根差した防災活動に長年にわたって取り組んでいるが、今年が「関東大震災から100年」の節目ということもあってその活動をより活発化させている。
 同社の代表的な防災活動「防災ジャパンダプロジェクト」は、将来を担う子どもたちとその保護者を対象に、災害から身を守るための知識や安全な行動を学んでもらうことを目的として2015年に開始した活動で、「防災人形劇」の他、災害から身を守る、皆で助け合う知恵や技術について体を動かしながら楽しく学べる「体験型防災ワークショップ」を実施。「防災グッズ暗記クイズ」や「紙食器づくり」など8コンテンツから成るプログラムを全国の各拠点が地元企業や自治体などと連携しながら展開しており、これまで500回以上開催し、7万7000人以上が参加している。
 「防災ジャパンダプロジェクト」の新たな取り組みとしては、今年1月に災害発生時の“逃げ遅れゼロ”を目指す「SOMPO逃げ地図づくりワークショップ」をスタートした。「逃げ地図」とは、目標とする避難地点までの道路や通路を想定通過時間ごとに色鉛筆で塗り分ける手作りの地図で、直感的に危険な場所や逃げるべき方向を理解することができる。地域住民などが自ら作成し、地図を見ながら参加者同士で話し合うことがワークショップの特徴で、防災上の地域課題の発見や将来的なまちづくりなどを通して、世代間のリスクコミュニケーションの促進が図れる。
 もともと大手設計会社の日建設計のボランティア部が11年の東日本大震災をきっかけに開発したコンテンツで、明治大学山本俊哉研究室が中心となって推進していたところに損保ジャパンが協力を申し出て、今回、山本教授の監修の下に独自のワークショップとして普及活動の実施につながった。今後は社内でワークショップのファシリテーターを養成しつつ、同社のネットワークを活用して全国展開を進めていく。



逃げ地図づくりワークショップ



【被災経験から生まれた地方発の防災スキーム】
 近年、地方拠点から始まった防災・減災の取り組みも増えている。同社は昨年、岡山県にあるNPO法人や民間組織ネットワークとパートナーシップを締結し、被災地に必要な物資を調整するシステム「できるかもリスト」の普及促進を図っている。地元の企業・団体などにリスト化されたカタログから提供可能な支援物品を選択・登録してもらうことで、実際に災害が発生した際には、NPO職員や支援団体が被災地に必要な物を必要な分だけタイムリーに手配することを可能にする仕組みで、2018年7月に発生した「西日本豪雨」で岡山県が甚大な被害を被った経験を基に開発された。損保ジャパンの現地支社は、地域の代理店ネットワークを活用してパートナー企業の登録を加速させており、現在は同取り組みを全国規模に展開している。
 もう一つ、岡山発の取り組みとして、同社は今年3月に、NPO法人やタクシー会社、画像認識技術のメーカーと共同で「避難行動要支援者向けオンデマンド型避難サービス」の実証実験を開始した。災害時に避難しづらい高齢者の自宅に「見守りカメラ」を事前配布し、災害が発生した際には見守りカメラを通じて対象者に避難指示を出し、避難の意思が確認できた場合にはタクシーが避難所まで送迎するというスキームで、実証実験の結果を踏まえ、早期避難のためのソリューション開発を進めていく。
 一方で、職場とは別の集まりから生まれる防災活動もある。今年の「防災の日」に合わせた取り組みとして、損保ジャパン日本橋ビルの1階エントランスホールに、同社のこれまでの災害対応の取り組みや災害年表のパネル、さまざまな防災グッズなどを展示する「ジャパンダの防災博物館(REAL SOMPO PARK)」がオープンする。この取り組みは、社員一人一人の仕事の意義を振り返り、働きがいの向上につなげるために21年に開始した社内副業制度「SOMPOクエスト」を通じて集まった社員が行っており、同社社員の防災・減災に対する思いの強さが反映されている。
 また、同社で11年から続けているNPO法人との協働による市民参加型の生物多様性保全活動「SAVE JAPAN プロジェクト」では、22年度から生態系を活用した防災・減災(Eco―DRR)の概念も取り入れており、干潟、棚田の保全活動や「いきもの観察会」などを通じて、生態系の保全活動が地域の防災・減災にもつながることを普及・啓発していくプログラムを実施している。今年度は他エリアでも拡大する方針だ。
 今年創業135周年の節目を迎える同社では、「本業である防災・減災に資する保険商品やサービスの提供だけでなく、地域での防災活動などを通じて災害に強い地域社会をつくることに貢献したい」としている。



損保ジャパン日本橋ビルの防災博物館