特集 関東大震災から100年(6)東京都、「TOKYO強靭化プロジェクト」推進
東京都、「TOKYO強靭化プロジェクト」推進 「倒れない・燃えない・助かる街」目指す 安全確保を呼掛ける「事業所防災リーダー」募集
激甚化する風水害や、大規模な地震・火山噴火などの災害から都民の生命や暮らしを守り、首都東京の機能や経済活動を維持するため、東京都では、2022年12月に「TOKYO強靭化プロジェクト~『100年先も安心』を目指して~」を策定した。同プロジェクトは「風水害」「地震」「火山噴火」「電力・通信等の途絶」「感染症」の五つの危機に備えるものとして策定されており、地震については、「大地震があっても『倒れない・燃えない・助かる』まち」を目指している。
目指す到達点(政策目標)
【TOKYO強靭化プロジェクト策定の背景と、目指す東京の姿】
これまで都では、地震や風水害などの災害に備え、各種インフラ整備の計画的な実施や、自助・共助を促す事業の推進など、幅広い対策の充実を図り、着実に成果を上げてきた。一方、気候変動の影響によって頻発化・激甚化する風水害や、社会の変化に伴い新たな課題も重みを増す首都直下地震などの災害は、いつ起きてもおかしくはなく、これらが複合的に発生するリスクも懸念されている。こうしたことから、自然災害の危機に直面する中にあっても、都民の生命と暮らしを守り、日本を支える首都東京の機能や経済活動を維持するためには、災害に対する東京の強靭化に向けて、都の各施策をレベルアップする必要があると考え、同プロジェクトが立ち上がった。
また、強靭化に向けた取り組みは、インフラ整備等に非常に長い時間とコストを要することから、将来を見据えて、中長期にわたり安定的・継続的に取り組んでいく必要がある。
これらの観点を踏まえ、同プロジェクトでは、「風水害」「地震」「火山噴火」「電力・通信等の途絶」および「感染症」の五つの危機に対して、東京の強靭化に向けた目指す到達点と、40年代までの施策の全体像を明らかにし、都が実施する事業を取りまとめている。
【都が目指す東京の姿】
プロジェクト全体で40年代までに目指す東京の姿として都は次の二つの都市像を掲げている。 ①気候変動や地震等の脅威に対して、ハード整備に加え、社会情勢の変化を踏まえたソフト対策により、都民の生命を最大限守り、都市の被害を最小限に抑え、都市の機能を早期に回復できる都市。
②多様な危機への万全な備えが評価され、さまざまな投資を呼び込むとともに、国内外から人々が集う、安全・安心で持続可能な都市。
さらに、地震に対しては、40年代に目指す東京の姿として「大地震があっても『倒れない・燃えない・助かる』まちをつくる」という目標を設定している。
こうした街づくりでポイントとなるのが、耐震化された建物と、燃え広がらない・燃えない環境づくりだ。木造住宅密集地域の不燃化とともに、地域の防災力が向上することで、大規模火災の発生・拡大を抑止することができる。
また、建築物の耐震化と並んで重要な取り組みとして、無電柱化の推進が挙げられる。建築物や電柱の倒壊が起こらなければ、地震後に応急対策活動を支える交通網が確保され、救出救助機関がすぐに駆け付けることができる。
さらに、沿道が広範にわたり耐震化され、発災時の被害把握にデジタル技術が活用されることで、早期に緊急輸送網を構築できるという。
【民間企業に求められる役割とは】
東京を強靭で持続可能な都市につくり上げるためには、都の取り組みだけで目的を達成することは不可能だ。広域にわたる課題への取り組みや、地域の実情に応じた取り組み、ライフラインの強化など事業者の対策を促す取り組み、都民による自助共助の取り組みなど、多様な主体と緊密に連携しながら施策を展開する必要がある。
電気、ガスなどのエネルギー供給のほか、通信、公共交通など民間事業者のライフラインは、都民生活や社会経済活動に欠かせない重要なインフラであり、その強靭化が強く求められる。
同プロジェクトの策定に際し、さまざまな観点から検証を進めるため、都は、ライフラインを提供している事業者と意見交換を実施してきた。今後とも意見交換や情報提供等を通じて連携を強化するとともに、各事業者の強靭化の取り組みの着実な推進を求めていく方針だ。
ライフライン事業者の他にも、降灰時の道路啓開(緊急車両等の通行のため、早急に最低限の対応を行い、簡易な段差修正等により救援ルートを開けること)や、避難者のための物資確保、強靭化に寄与するまちづくりなど、多様な場面で、東京の社会経済活動を支えるさまざまな事業者の協力を得る必要がある。そのため、個別の施策ごとに関係事業者との連携を強化するとともに、強靭化に向けた気運醸成の取り組みを通じ、同プロジェクトへの理解促進にも取り組んでいる。
【企業のBCPに加えてほしい観点:事業所防災リーダー】
多くの企業等が集まる東京において、大規模地震等の災害発生時には、従業員の安全確保や一斉帰宅の抑制など、企業等における災害対応への取組が非常に重要だ。
そこで都では、防災に関する情報を職場内で発信し、防災に関する普及啓発を進めるとともに、災害時に周囲の人たちに安全確保行動を呼び掛けるといった役割を担う「事業所防災リーダー」の登録を推進している。 事業所防災リーダーには、企業等における都との窓口となり、事業所内で防災対策を推進するという、まさに要の役割を担うことが期待されている。
都では、事業所防災リーダーとメールやLINEで直接つながり、情報を配信することで、現場で対策に取り組むリーダーのサポートを実施している。現在は登録したリーダーごとにオフィスページで情報を配信しており、今後、このページを通じてさまざまな教育コンテンツ等も配信していく予定だという。
リーダーへの登録は無料。都は、企業のBCPにおいて、事業所防災リーダーの取り組みを、災害時の情報収集や平時の取り組みなどの項目に組み込んでほしいとしている。
※リーダーへの登録はこちらから
【東京都で働く人・暮らす人へ:今後の防災に関する取り組み紹介】
関東大震災から100年の節目を迎える今年は、防災に対する関心が高まる契機となっている。都では、この節目を捉えて「備えよう、明日の防災」を合言葉に、防災の日である9月1日を中心とする期間を「コアWEEKs」として設定し、国とも連携しながら集中的に取組を実施している。
8月26日には「関東大震災100年イベント」を開催し、「関東大震災100年の節目に学ぶこれからの防災」をテーマに有識者の基調講演や座談会、都民参加・体験型のプログラムを実施した。また、9月2日から3日には、東村山市役所周辺で、避難所開設・運営など自助・共助の防災行動を体験できる都民参加型訓練や、防災DXを活用した救出救助訓練を実施する予定だ。
さらに、自助・共助のさらなる促進を図るため、都民の災害への備えを促す防災ブック「東京防災」と「東京くらし防災」をリニューアルし、9月1日に電子版を公開した。そのほかにも、震災や復興まちづくりを分かりやすく伝える動画に加え、当時の写真等を地図上で見られる復興デジタルアーカイブを公開している。こうした各種取り組みにより、都民や事業者の防災意識の向上を図っていく方針だ。
■ご存知ですか? 災害用伝言ダイヤル 毎月1日と15日は体験利用が可能
地震、噴火などの災害の発生により、被災地への通信が増加し、つながりにくい状況になった場合に提供が開始される声の伝言板「災害用伝言ダイヤル」。携帯電話の世帯普及率が9割を超えた現代でも、非常時には通信手段が断たれてしまう可能性がある。そんな時でも、災害用伝言ダイヤル(171)を使えば、大切な人の安否を確認することができる。
使い方は次の通り。
①171をダイヤルする。
②ガイダンスに従って、録音の場合は1を、再生の場合は2をダイヤルする。(暗証番号を付けて録音・再生を行うことも可能)
③ガイダンスに従って、連絡を取りたい人の電話番号をダイヤルする。
④伝言を録音・再生することができる。
災害用伝言ダイヤルを提供する通信会社各社では、災害発生に備えて利用方法を事前に覚えてもらうことを目的に、毎月1日と15日の00:00~24:00の間、体験利用できる機会を提供している。また、防災週間である8月30日9:00~9月5日17:00も体験利用が可能となっているので、いざという時に備えて、この機会にぜひ一度体験することをおすすめしたい。