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特集 関東大震災から100年

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関東大震災の記録から考える これからの防災
「想像力」こそ「防災力」
防災専門図書館の司書・堀田弥生氏に聞く

 

関東大震災の鳥瞰図絵の前に立つ堀田氏


 

 東京都千代田区にある防災専門図書館は「防災、災害等に関する資料の収集とその活用・発信を通じて、住民のセーフティネットとして貢献する」ことを目的に、公益社団法人全国市有物件災害共済会により運営されている専門図書館だ。1956年7月の開設以来、台風や地震などの自然災害に限らず、火災や事故などさまざまな災害やその対策に関する約17万冊の資料を収集している。司書・学芸員の堀田弥生氏は自然地理学や地形学など災害に関連する学問を修め、職に生かしているという。日本の国土の成り立ちと自然災害は切り離せないと語る同氏に、関東大震災の記録から読み取れる防災に必要な心構えや、われわれが今考えるべき首都直下地震への備えについて聞いた。
 
――日本という国と自然災害の関係についてどう見ているか。
堀田 誤解をおそれずいえば、日本列島は自然災害で成り立っていると言っても過言ではない。日本列島は「変動帯」に位置しており、複数のプレートがぶつかり合い地殻変動が激しい。そういう場所では当然地震も起きるし、火山も噴火する。富士山も宝永噴火から300年ほど大きな噴火は起きていないが、火山の一生からみればこの平穏も一瞬のことに過ぎない。東京に関して言えば、関東大震災以降いわゆる大地震は約100年起きていない。1950年代以降、戦後の発展期に大きな地震が少なかったのは、日本にとって幸運だったといえる。
――日本人と自然災害との付き合い方も変わってきたと思うが。
堀田 例えば最近各地で発生している洪水の問題を考えてみたい。そもそも河川は山から土砂を削り、平野を蛇行しながら流れる。出水時には洪水を起こし土砂を堆積させるのが自然な状態。人が河道を直線的に固定して堤防をつくったことで、旧河道など洪水リスクの高い土地に人が住むようになった。いったん堤防ができると、その堤防で防げる規模の洪水は起こらなくなる。そうなると、次に洪水が起きるのは、堤防の防御力を超える時。「低頻度大災害」という事態が生じることになる。農耕を主とする社会では、人々は利水や治水など、水に関して敏感にならざるを得なかった。川に近い低湿地は水田として利用し、微高地は住居や畑に利用した。水害常襲地帯でかつてはよく見られた輪中堤(ある特定の区域を洪水の氾濫から守るためにその周囲を囲むようにつくられた堤防)や、水屋(土を盛った上に建てられた、水害時に避難生活するための建物)は、避けられない災害に備えるための生活様式、災害文化ともいうべきもの。しかし、ダムや堤防など治水力が増し水害が減ると、災害前提の生活様式は不便なものになってしまう。閉じられた堤防の不便さを解消するために、堤を切って道を通すなどした結果、大洪水時に輪中の内側に水が流れ込み被害が生じた例もある。水害常襲地は河川の近くや周囲より低い土地など、もともと洪水リスクが高い。ひとたび洪水が起きれば危険な土地であることに変わりはない。治水力が増し、人が水害を経験しなくなったことで、人間が災害リスクに鈍感になっているところはあると思う。
――関東大震災から学ぶべきことは。
堀田 災害は社会的なもの。現代に関東大震災と全く同じ地震が起きたとしても、社会が全く異なるので同じ被害にはならない。まず、100年前と今とでは、人口密集度が違う。関東大震災の鳥瞰図絵を見てもらうと分かるが、東京や横浜の火災や各地の集落の被害が描かれ、集落と集落の間には、何も描かれていない部分がある。おそらく田畑や林、荒地だったであろう土地は今、大部分が生活圏に変わっている。そこに大地震が発生すれば、被害の様相は当時とは大きく異なるはずだ。来館者には「この何もないところは何だったと思いますか」と問いかけている。現代に災害が発生したらどうなるのか、想像力を広げることが防災の一助になるのではないだろうか。例えば、首都直下地震についても東京都が被害想定を出しているが、都市部では高齢者や一人暮らしの人が増え、スーパーやコンビニ、外食に頼って暮らしている人も多いだろう。大地震が起きると商品はすぐに売切れ、物流が止まると入荷は簡単には見込めない。自宅に備蓄がなかったらどうなるか、想像をしたことがない人もいるのではないか。また、関東大震災当時に比べ、建物の耐火性能の向上や区画整理などで、延焼の危険度は下がっているが、単純に安心することはできない。RC造の建物でも、室内の可燃物は燃える。オール電化の家は火を使わないが、通電火災のリスクもある。
――今後、防災を考える上でのポイントは。
堀田 そこに「どんなリスクがあるのか」ということを事前に考える必要がある。近年はこれまでにない水害や浸水の被害が毎年のように起きている。避難訓練というと地震や火災を想定するが、地域によっては水災の危険を周知することも重要だと思う。また、大災害は、悪条件が重なった結果ということもしばしばある。関東大震災の時には、台風が本州を通過中で東京では風が強く、さらに、風向きが刻々と変化したことで火災の被害が拡大した。関東大震災で被災した地域はその後の復興計画で区画整理がなされたが、その周辺地域では今も消防車が入れない木造密集地が存在している。水利が使えない、消防車が来ないなど、悪条件や想定外を想定することが大事ではないだろうか。
――防災を考える上でのキーパーソンは。
堀田 個人的には、「お母さん」の存在は大きいと感じている。子どもを守ることにかけて、親はとても大きな力を発揮する。また、防災教育は子どものうちから刷り込むのが最も有効だと感じている。子どもは先入観もないし、非常に柔軟に新しい知識を受け入れる。小学校などでは常に防災に関する情報をアップデートしながら避難訓練などを実施しているので、子どもこそ、多くの大人にとっての「防災の先生」と言えるかもしれない。大人も知識をアップデートする機会が必要だ。
――大災害に向けて必要な心構えとは。
堀田 まずは命が助かること。次は生き延びること。備蓄の例でいえば、最近では、ローリングストック(日ごろから自宅で利用しているものを少し多めに購入し、消費した分を買い足すことで、 常に一定量の食品や生活必需品が家庭で備蓄されている状態を保つ方法)の認知が広がり、実践する人も増えたと思う。一方で「どれくらいストックしておけば良いのか分からない」という声も聞く。かつて、ストックは3日分と言われていたのが、近年は7日分を推奨するようになった。しかし、同じ7日分でも必要な量は人によって違う。さらに言えば、7日後に食料が調達できる保証はない。ストックする中身も、家族に小さい子どもや高齢者がいる、アレルギーがある等それぞれ事情が異なるので、言われたとおりにするのではなく、自分に合った備蓄を考えてほしい。企業については、社員個人の安否確認はもちろんだが、本人にとっては家族と連絡が取れないと心理的には大変辛い。BCPを遂行するためにも、社員とその家族の安全を前提に企業としての方策を検討してもらいたい。災害に遭う遭わないは運かもしれないが、知識と経験は生き延びる可能性を高めることができると信じている。
 
【防災専門図書館の司書が勧める防災関連書籍5選
■「私たちはいつまで危険な場所に住み続けるのか自然災害が突き付けるニッポンの超難問」
木村駿(著)、真鍋政彦(著)、荒川尚美(著)、日経アーキテクチュア(編集):日経BP(2021年10月21日刊)
■「重ね地図でわかる!日本列島のしくみ見るだけノート」
鎌田浩毅著:宝島社(2019年6月26日刊)
■「東京は世界最悪の災害危険都市―日本の主要都市の自然災害リスク」
水谷武司著、東信堂(2018年1月25日刊)
■「ブラタモリ(2)富士山/東京駅/真田丸スペシャル(上田・沼田)」
NHK「ブラタモリ」制作班著:角川書店(2016年7月29日刊)
■「首都大地震揺れやすさマップ」
目黒公郎、遠藤宏之著:旬報社:(2013年10月10日刊)

 
【お知らせ】
2023年8月21日(月)~2024年9月30日(月)まで、防災専門図書館企画展「関東大震災から100年~備えよう!首都直下地震」開催中。

 

 
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