損保協会 舩曵新協会長インタビュー 顧客との信頼関係再構築の年に 実効性ある「第三者評価制度」運営に注力 企業のリスクマネジメント力向上では認定制度も
損保協会が6月30日に開催した定時社員総会での役員改選により、MS&ADインシュアランスグループホールディングス取締役社長・グループCEOの舩曵真一郎氏が新たな協会長に就任した。保険毎日新聞などとのインタビューに応じた舩曵新協会長は今後の抱負として、一昨年に不正事案が発覚して以来、社会から厳しい視線が注がれる損保業界について、信頼回復を再構築する一年にしていきたいと述べ、とりわけ損保協会で現在進めている「第三者評価制度」の運営や、企業におけるリスクマネジメント力の向上の支援に注力していく考えを示した。
舩曵新協会長ははじめに今後の抱負を述べ、最も注力していくこととして、損保業界として一連の不正事案の再発防止策を徹底するとともに、5月に成立した「保険業法の一部を改正する法案」や、今後公表される改正版の「保険会社向けの総合的な監督指針」などを踏まえて販売体制を再構築し、「(消費者や企業などの)お客さまが損害保険に安心して加入し、保険金を受け取る際にも満足感を持ってもらうようにしていくことで信頼を回復していきたい」と説明。具体的な施策として、顧客本位の業務運営を徹底し、保険代理店および募集人の業務品質を確保するために、現在本格運用に向けて整備を進めている「代理店業務品質評価制度(第三者評価制度)」が重要だとした。同制度では、これまで業界で容認されていたルールや慣行を抜本的に見直す内容になっており、実効性ある形で運用していくためには、とりわけ損保会社と代理店の双方がその内容をよく理解した上で、「自己点検チェック」を通じて適切に対話していくことが不可欠との認識を示した。
また、企業マーケットでの取り組みについては、「リスクマネジメント」がキーワードになるとした上で、保険会社側だけでなく、契約者である企業側でもリスクマネジメント力の向上に向けた取り組みが必要との考えから、すでに損保協会で実施しているリスクマネジメントに関するツールの作成や企業向けリスクマネジメントセミナーの開催などに加えて、リスクマネジメントについての関心やノウハウ、知見を高めていく目的で新たな認定制度の立ち上げを検討していくとした。
この他、比較推奨販売が厳格化されることを踏まえて、同協会の役割として顧客本位に立った適切かつ円滑で効率的な募集体制のあり方を検討していく考えを示した。
一方で、今年度は引き続き自然災害リスクへの対応力を強化していくとし、とりわけ自然災害によってダメージを被りやすい半面、自然災害に対応した保険の加入率が低いとされる中小企業に対する保険面でのバックアップとして、事業継続性が高められるような補償の仕組みの構築を国や自治体などとも連携しながら検討していくとした。
この後、記者からの質問で、金融庁が公表した「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正案に、「代理店手数料の算出方法適正化」が含まれていることに対して、舩曵協会長は「保険会社と代理店が顧客本位に立って募集するに当たって、ルールやプロセス、役割などが大きく変わる中で、どういう業務に対してどういう手数料があるべきなのか再検証することは当然だと思う」と回答した。
また、大きな転換点を迎える中で保険業界が今後どのように変わっていくのか尋ねられると、「これまで営業部門で行っていた仕事の多くが今回のチェックリストではNGになった。今後の営業部門の仕事は、個人分野でも企業分野でもリスクマネジメントが中心になり、どれだけお客さまに納得感のある保険料が提示できるか、または他社が引き受けられないリスクの幅や量を引き受けられるか、といった価値提供が重要になっていくのではないか」と述べた。
【舩曵真一郎(ふなびき・しんいちろう)氏の略歴】1960年5月11日生まれ。83年3月神戸大経営学部卒業、同年4月住友海上入社、2007年4月三井住友海上商品本部自動車保険部部長(商品企画担当)、08年4月千葉埼玉本部埼玉西支店長、10年4月営業企画部長、12年4月経営企画部長、13年4月執行役員経営企画部長、15年4月常務執行役員東京企業第一本部長、17年4月取締役専務執行役員、MS&ADインシュアランスグループホールディングス執行役員グループCIO、グループCISO、18年4月MS&ADインシュアランスグループホールディングス執行役員グループCIO、グループCISO、グループCDO、19年4月MS&ADインシュアランスグループホールディングス専務執行役員、20年4月取締役副社長執行役員、MS&ADインシュアランスグループホールディングス執行役員グループCDO(デジタライゼーション推進)、21年4月代表取締役取締役社長社長執行役員、MS&ADインシュアランスグループホールディングス執行役員、24年6月MS&ADインシュアランスグループホールディングス代表取締役取締役社長社長執行役員、グループCEO(現職)。
■観光DXがシニアの壁に
経済的な問題以外では、根強い感染症への不安などの要因が考えられるほか、観光DXの進展がシニアの旅を阻んでいる可能性も見過ごせない。感染症対策に伴う非接触化や、深刻化する人手不足、オーバーツーリズムといった新たな課題に対応するため、観光・宿泊施設、交通機関では積極的にDX化が進められた。電子チケットやウェブパンフレットへの移行、スマートチェックインの導入など、スマートフォン等デジタル端末の活用ありきの予約や決済が標準化されつつある。シニア世代では旅行代理店を通じたパッケージツアーの利用も多いと考えられるとはいえ、DX化によるサービス利用上の困難が広がり、結果として他世代との情報格差が拡大している恐れがある。総務省の「情報通信機器の利用に関する世論調査(23年)」によれば、スマートフォンやタブレットを「よく利用している」「ときどき利用している」との回答は、70~79歳で57.7%、80歳以上で42.2%と、最も高い20~29歳(99.1%)との差が極めて大きい。キャッシュレス決済の利用率についても60代から20代との差が目立ち始め、70代以降でその傾向は一段と強まる。
オーバーツーリズムによる混雑もシニアにとって大きな障壁である。混雑した観光地では、トイレに行きづらくなったり、杖を使った歩行が困難になったりと身体的負担が大きい
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