ガス・電気代が2倍になった国(下)
ドイツの年金生活者のうち、27.8%に当たる約490万人が、毎月1000ユーロ(14万円、1ユーロ=140円換算、以下同じ)より少ない年金で暮らしている。就労可能だが仕事が見つからない長期失業者の数は約370万人、病気などで就労できず、生活保護を受けていた低所得者の数は約116万人に上る。長期失業者が受け取る援助金は、2023年1月1日の時点で1カ月当たり502ユーロ(7万280円)。彼らは、この中からガスや電気料金を払わなくてはならない。ロシアのウクライナ侵攻の影響で電気代やガス代が2倍に増えるということは、低所得層にとって大きな打撃である。
そこでショルツ政権は昨年9月29日、「市民と企業の負担を緩和するために、約2000億ユーロ(28兆円)を投じて、電力やガスの価格に部分的に上限を設定する」と発表した。これは連邦政府の予算の約36%に相当する金額だ。
まず政府は、市民と中小企業のガスと地域暖房料金のうち、昨年12月の事前支払額を全額負担した。これによって市民と中小企業は、約90億ユーロ(1兆2600億円)の出費を免除された。
第二段階は、ガス、電力、地域暖房の価格への上限設定だ。まず政府は、今年1月1日から、家庭と中小企業の21年の電力消費量の80%について、1キロワット時当たり40セントの上限を設定した。
また、政府は家庭と中小企業のガス消費量の80%について、1キロワット時当たり12セントの上限を設けた。これは22年第4四半期の平均ガス料金(20.04セント)に比べて相当低い額である。政府が巨額の補助金を投じることで、ガス料金がほぼ40%も抑えられたのだ。
連邦エネルギー水道事業連合会の試算によると、年間ガス消費量が1万9500キロワット時の家庭では、ガス料金が約161%増えるはずのところが、政府の補助金によって上昇率が69%に抑えられる。電気代は約60%増えるはずだったが、政府の援助により約36%に抑えられた。もちろん、市民の負担がゼロになるわけではないが、去年に比べて2倍に増えるような事態は避けられる。
政府が連邦予算の約3分の1に当たる巨費を投じた支援策に踏み切ったのは、多くの市民がエネルギー貧困状態に転落して、社会不安が広がることを防ぐためだった。
暖冬のためにガス消費量も減っており、ドイツ人たちは「今年の冬は乗り切れるかもしれない」という希望を持ち始めている。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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